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【新連載】美意識を旅する。私たちが建築のために旅に出る理由と、The Siam Hotel の記憶

2025.12.16

家づくりにおいて、デザインと同じくらい大切にしているものがあります。

それは、「五感で感じる空間の記憶」です。

朝起きたとき、窓から差し込む光が壁を伝ってどう陰影を落とすか。

使い込まれた無垢の床材が、素足にどのような感触を与えるか。

庭の木々が風に揺れる音が、室内でどう響くか。

KONARA HOUSEが追求する「時を経ても色あせない普遍的な美しさ」は、こうした微細な感覚の積み重ねによって生まれると考えています。

だからこそ、私たちは旅に出ます。

日常を離れ、優れた建築や、こだわり抜かれた空間に身を置くこと。それは単なるリフレッシュではなく、お客様へご提案する「豊かな暮らし」の引き出しを増やすための、大切なインプットの時間でもあります。

本日から始まるこの連載では、私がこれまでに訪れ、その建築や空気感に感銘を受けたホテルやヴィラをご紹介していきたいと思います。

観光ガイドには載っていない、「建築・デザイン」という視点からの滞在記。皆様の家づくりのヒントになれば幸いです。

Vol.1 「邸宅」という名の極上。The Siam Hotel (Bangkok)

記念すべき第1回目にご紹介するのは、タイ・バンコクのチャオプラヤー川沿いに佇む「The Siam(ザ・サイアム)」です。

昨年の1月、冬の日本を離れて訪れたこの場所は、建築家ビル・ベンスリーが手掛けたことでも知られる、わずか39室のスモールラグジュアリーホテルです。

私がここを選んだ理由は、ホテルでありながら「クラシックな邸宅(Mansion)」のような普遍的な安らぎを感じたかったからに他なりません。

エントランスを抜け、回廊を進んだ先にあるライブラリー。

そこには、ピカピカの新品ではなく、オーナーのコレクションであるアンティークが美術館のように、しかし日常の風景として静かに並んでいました。

「新しいものだけが良いわけではない」。

時を経たものだけが醸し出す重厚感が、空間に深みを与えています。

 

|「床の高さ」で空間をデザインする

客室のデザインにおいて、特に日本の住宅でも取り入れたいと感じたのが「ゾーニング(空間の区切り方)」です。

ご覧ください、この客室。

リビングスペースと、奥のベッドエリアの間に壁はありません。その代わり、床のレベル(高さ)を数段上げることで、心理的な境界線を作っています。

壁で仕切らないため視線が奥の窓まで抜け、広がりを感じさせつつも、「眠る場所」としての特別な籠り感は確保されている。

この「段差(スキップフロア)による領域の作り方」は、開放的でありながら落ち着きのある寝室や、リビングの一角にくつろぎのスペースを作りたい時など、非常に参考になる手法です。

 

|光のリズム、影の幾何学

The Siamを歩いていて最も心を奪われたのは、建築と太陽が作り出す「影のアート」でした。

例えば、この回廊のひとコマ。

頭上のパーゴラ(格子状の屋根)を通過した強い陽射しが、白い床に幾何学模様を描き出しています。

この影は、太陽の動きに合わせて刻一刻とリズムを変えていきます。

派手な装飾に頼らずとも、「光をどう遮り、どう落とすか」という構造の工夫だけで、空間はこれほどまでにドラマチックになるのです。

【Architect’s Note】

「素材の質感が、空気を変える」

少しレトロなサブウェイタイルに、石を削り出したような存在感のあるバスタブ。

異なる素材を組み合わせながらも、モノトーンで統一することで、清潔感と重厚感が共存しています。肌に触れる場所だからこそ、フェイクではない「本物の素材」を選ぶ大切さを再確認しました。

The Siamでの滞在は、単なる宿泊ではなく、まるでセンスの良い友人の別荘に招かれたような、親密で満ち足りた時間でした。

この場所で感じた「普遍的な美しさ」のエッセンスを、KONARA HOUSEの家づくりにも少しずつ織り込んでいければと思います。

次回の旅の記録もお楽しみに。

Kiwamu Ogata